藤原です。
現在の稽古(4月時点)は、「台本の頭から、ひたすらセリフを覚える」ということをしています。
まず、私は稽古をしながら台本を書く、ということがこわくてできないので、細かい手直しは稽古をしながら行うものの、基本的に、稽古開始時点で最後まで書き上げています。
そして役者は、セリフを覚えないことには台本なしでしゃべれないので、必然的に覚えてもらうことになります。
団体によっては、それらは役者各人が家でやってくる作業、つまり宿題のようなものとして扱われ、大体2mmでも当然、少なからずそうしてもらっているのですが、稽古期間の前半は、ひたすら棒読みで、繰り返しセリフを発し、脳と口に馴染ませる、という作業に徹しています。これがまた、受験前の高校生を彷彿とさせる作業でして、毎回、稽古の終了時には、頭がへろへろになっています。
というのも、私の書くセリフがどうやら大変に覚えにくいそうで、これは私が旗揚げしてからほぼ全ての出演者から言われていることなので、そうなのだと思います。
試しに、過去台本の一部を掲載しますと、
1 ◯◯さん、イガラシって書けます?
2 イガラシ?
1 イガラシって漢字。
2 (考えて)んー、アザラシなら書けるんだけど。
1 アザラシ?
アザラシってなんです?
2 オットセイの仲間。
1 そうじゃなくて、
3 イルカショーに出てくるの、どっちだっけ?
2 イルカショーに出てくるのはイルカだろう。
何言ってんの?
3 アザラシだかオットセイも出てくるだろう。
2 それはアザラシショーか、オットセイショーだよ。
3 ちがう、ちがう。
やるんだよ、イルカの前座で、ショーを。
2 アザラシやオットセイに前座の概念ないだろう。
3 お前、アザラシやオットセイの知能なめんなよ。
みたいなやりとりが、延々1時間続きます。
脈絡なく「イルカショーに……」などと発するから、話の流れで覚えられない所や、同じ言葉を反復する所、「やるんだよ、イルカの前座で、ショーを」などと語順をバラしている所が、ランダムに発生するから、覚えにくいんだと思います。
だから最近は、多少、セリフを覚える効率も意識して書いているつもりなのですが、覚える側から言わせると、全然だそうで、もう、半ば諦めています。
だって、イルカショーの部分を、話の流れがわかるように書くと、
1 アザラシって何ですか?
2 俺もよく知らないけれど、きっとオットセイの仲間だよ。
3 アザラシとかオットセイとか、水族館みたいだね。
水族館と言えば、イルカショーに出てくるのはどっちだったかな?
みたいなことになると思うのですが、追加した部分が私には余計に感じられるし、顔見知りとはそんな風に丁寧にしゃべらない、という確信めいたものを持っているので、役者には申し訳ないけれど、端折り、かつ、語順をバラしています。
それっぽい用語で言うと、「日本語の会話はハイコンテクストである」ということです。
そもそも水族館の話じゃなくて、イガラシって漢字の話だし。
これまで3回ほど稽古をしまして、15ページ分くらい、セリフを脳と口に馴染ませる作業が進んだのですが、演出の藤本瑞樹くんが、飯野さんに、「どれくらい覚えられた?」と聞いた所、「うーん、“7”くらい」と答えました。
「7って何?」
「だから、数字で言うと」
「それは、7割ってこと?」
「だから、数字の7」
「10のうちの、7?」
「いや、100のうちの7」
「あ、100分の7」
「そう」
「7%かぁ……」
と、何とも言えない顔をしていました。
何が言いたいのかというと、現在の進行状況は7%です。
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飯野智子演劇生活30周年記念公演
大体2mm『迷惑』
作:藤原達郎 演出:藤本瑞樹
日程:6月29日(土)14:00/18:00★パーティー回
30日(日)14:00
会場:J:COM北九州芸術劇場 小劇場