ソファーの裏

藤原です。

舞台作品では、シーンをつなぐ時に、「暗転」といって照明を真っ暗にし、その間に準備をして、明かりがつくと次のシーンに移り変わっている、という演出が古来より行われています。
準備には、人の出入りだけでなく、小道具を出したり片付けたりすることも含まれており、出演者もスタッフも、暗視ゴーグルをつけているわけではないので、暗い中でどうにかこうにか行なっています。ケガをしないように、かつ、スムーズに準備するため、リハーサルで場面転換だけの練習を行うくらい、重要な作業です。

みずきくんと德ちゃんが、暗転中の打ち合わせをしていました。

「次のシーンで、飲み物が必要だよね」
「ですよね、飲み物、どこに準備しておきましょうか?」
「ソファーの裏に隠しておけばいいんじゃない?」
「あー……でも、こぼれません?」
「そうかなあ」

軽くネタバレしてしまいましたが、舞台上にソファーと飲み物が登場します。
お客さんからは見えない位置に隠しておくというのも、よく行われる手段です。今回の『迷惑』では、小道具がたくさん登場するので、その準備や片付けの段取りを決めているのでした。

「こぼれないように、フタとかできないかな」
「フタしちゃったら、暗転中に開けれません」
「じゃあ、こぼさないように、気をつける」
「蹴飛ばしそうでこわいんですが」
「う~ん……」

そこに、飯野さんが加わりました。

「誰を蹴飛ばすって?」
「誰も蹴飛ばしません。次のシーンで飲み物が必要でしょ? その準備をどうしようかって……」
「ソファーの裏に隠しとけばいいじゃない」
「……それ、今言ったんですよ」

暗転はなるべく短い時間で済ませるのがセオリーです。真っ暗の時間が長いと、お客さんの集中力が切れてしまい、せっかくのお芝居が楽しみづらくなってしまうからです。

「だって、ソファーの裏が一番近いし、出しやすいじゃない」
「それはそうなんですけど、こぼさないようにどうするかって話で……」
「気をつける」
「そんな、身も蓋もない……」

その時、みずきくんが何かを思いついたような顔をしました。

「あっ」
「何か、いいアイディアが浮かびました?」
「もしくは……ソファーの裏とかに隠しておけばいいんじゃないかな?」
「……」

しょうもないことを思いついた時の顔でした。
そこからは、ソファーの裏って言いたいだけの時間が流れました。

「飲み物こぼしちゃったら、ソファーの裏で洗えばいいよ」
「洗うって、どうやって?」
「ソファーの裏に洗濯機置いて」
「いや、隠れないでしょ」
「開演前から置いとけば、そういうものなんだってバレない」
「お客さんの視力なめないでください」
「ソファーの裏で50分くらいスタンバイしてたら、足、しびれちゃうかな」
「ソファーの裏にマッサージチェア置いとけばいいでしょ」
「なら、まあいいか」
「どうせならもう、みんなソファーの裏スタンバイで」
「じゃあ仮眠できるように布団敷いといてほしい、ソファーの裏に」
「俺、季節の変わり目、めっちゃ鼻水出るんよね」
「そういう時には、ソファーの裏側を使うといいよ」
「ソファーの裏そんなに万能じゃありませんからね」

何が言いたいのかと言うと、今の所、ソファーの裏がてんやわんやです。

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飯野智子演劇生活30周年記念公演
大体2mm『迷惑』
作:藤原達郎 演出:藤本瑞樹

日程:6月29日(土)14:00/18:00★パーティー回
     30日(日)14:00
会場:J:COM北九州芸術劇場 小劇場

詳細はこちら
https://about2mm.com/meiwaku/

クラウドファンディングも実施中です。
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